頭蓋内圧低下症は、低髄液圧症候群、脳脊髄液減少症ともいわれる。
最近、むち打ち症程度の軽い外傷であっても髄液が漏れ出すことがわかり、本疾患と診断された場合、従来からの硬膜外ブラッドパッチ(自家血硬膜外注入)治療が注目されている。
参照ページ: http://www.yomiuri.co.jp/iryou/renai/20040505sr11.htm [リンク切れ]
また、髄液漏出の原因が不明のとき、特発性頭蓋内圧低下症 (SIH) とよばれるが、起立性頭痛と神経視覚症状を呈する治療可能な病気の1つである。
■ 硬膜脳脊髄液漏による特発性頭蓋内圧低下症にみられる神経視覚系所見
Ophthalmology. 1994 Feb;101(2):244-51.
Neurovisual findings in the syndrome of spontaneous intracranial hypotension from dural cerebrospinal fluid leak.
Horton JC, Fishman RA.
Department of Ophthalmology, University of California, San Francisco 94143-0730.
「以下は主要な文章の邦訳で、理解しやすくするために文章構成を変更しました」
頭痛、読書困難、かすみ、羞明 (まぶしい)、一過性の霧視、複視 (ものが2つにみえる) の諸症状は、特に眼科的検査が正常であれば「眼精疲労」との診断になりやすい。キーポイントは、横たわることで改善し、立つことで悪化する頭痛である。特発性頭蓋内圧低下症 (SIH) はおそらく、一般的には他覚的な所見がないため誤診されたり、見落とされている。著者らによる文献レビューにより、神経視覚的な問題が SIH 患者の相当数に起こることが示唆された。特発性頭蓋内圧低下症 (SIH) は起立性頭痛と神経視覚症状を呈する治療可能な病気の1つである。
主症状: 起立時の頭痛 (横たわると、改善ないし消失する)
他症状: 嘔気、嘔吐、頚部硬直、回転性めまい、耳鳴り、聴覚過敏 (音が響いて聞こえる)
【眼症状を呈した3症例の提示】(詳細省略) 42才,女性。38才,男性。41才,男性。
脳重量は平均1500gであるが、脳脊髄液中で海のブイのように浮いているので、浮力を計算すると脳の重さは、わずか 48g となる。もし、脳脊髄液が外部に漏出し減少すると、脳は頭蓋底に置かれたようになり、いろいろな神経症状を来たす。
デリケートな髄膜や血管が圧迫、牽引されると、頭痛、頚部硬直、嘔気が起こり、横たわると、軽快する。
脊髄の神経根を囲んでいる硬膜鞘に小さな孔や欠損ができ、髄液がくも膜下腔から硬膜外腔へ流れ出す。神経根に存在する Tarlov 嚢 (硬膜が薄くなり、拡張している神経周囲組織)の自然破裂によって起こると考えられている。
診断方法: 腰椎穿刺による髄液初圧測定(症状を悪化させるので、他方法でSIHが疑わしい症例にのみ限定して行うべき), 放射線アイソトープ T12の漏出像, MRI検査。
MRIによる新知見と原因 (1991年以降の論文より): 脳幹の下降、扁桃ヘルニア、橋部 (basis pontis) の平坦化、脳皮質溝の消失、硬膜下水腫、硬膜下血腫、硬膜のびまん性肥厚と造影剤強調 (contrast enhancement)がある。これらの所見はCTでは検出困難である。
自験例: 2症例で、かすみ、一過性の霧視、非特異的周辺視野欠損がみられた。視野欠損は上鼻側象限に最も強く、下鼻側、上耳側にも起こる。硬膜外ブラッドパッチ治療により、視野障害は著明に改善し、一過性の霧視は消失した。周辺視野欠損については、患者本人は自覚していない。対座法でははっきり検出することは困難なほど軽度のものである。座位での検査に耐えられないので、今回 ハンフリー自動視野計(HFA) 120点スクリーニングプログラム (測定時間 わずか8分) を使用した。
発症機序: (MRI所見などによる推測) 視交叉部の圧迫、頭蓋内での視神経の圧迫や視神経血管のうっ血
自験例: 1症例で、第6脳神経麻痺 (外転神経麻痺)を来たしたが、MRI所見のとおり、脳幹の下方 ヘルニア (3-4mm)のため第6脳神経が伸展したか、橋槽の減少や脳幹部が斜台上に置かれたようになったため、第6脳神経が直接圧迫・屈曲し、軸索輸送が障害されたものと考えられる。
原因不明 (特発性) 例の報告:
(1938年-1993年. 自験例3症例を含むと 76例、女性 57, 男性 19名となる)
初めての報告例 ⇒ Schaltenbrand G (1938年): 30才、女性。腰椎穿刺による髄液圧(初圧) 40 mmH2O。
他の論文報告例 73例
眼症状について言及したもの: 17/73症例
複視(ものが2つにみえる)、一過性視力障害、かすみ、眼振、羞明(まぶしい)。
複視の原因は、両側ないし片側の第6脳神経麻痺によるものと特定されていないものがある。
頭蓋内圧低下症の原因として、
·脊髄麻酔, 診断のための腰椎穿刺 (髄液検査), 髄液造影などのとき、硬膜の小孔からの髄液漏出
·外傷、腫瘍、手術による鼻漏、耳漏 (髄液漏出)
訳者注: 最近、むち打ち症も原因であることがわかった
腰椎穿刺後の頭蓋内圧低下症による眼症状:
Abouleishら (1975年)の報告: 発症頻度 10% (激しい頭痛を呈した118症例中)
Vandam LD & Dripps RD (1956年)の報告: 発症頻度 0.34% ( 34/10,098症例)
複視、かすみ、読書困難、羞明、飛蚊症様の症状、目の焦点が合わない。
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