ポスナー シュロスマン症候群 Posner-Schlossman Syndrome, 同意語 glaucomatocyclitic crisis
ポスナー シュロスマン症候群の診断に際して、下記の臨床像が重要です。本症候群は、再発性の続発性緑内障の中で、原因不明で「著しい眼圧上昇を反復するにもかかわらず、随伴する炎症所見はごく軽度である」特徴的な臨床像を呈するため、臨床経験の少ない眼科医であっても診断は容易です。しかし、本症候群の特徴として、病気が反復発症しても、self-limiting 自然治癒する疾患であり、後遺症を来たさないとの原著論文のエビデンスが今でも全面的に採用されているため、眼科医は「多くのケースは良性」と誤解しているかもしれません。
今後、本症候群の臨床経過について質の高いエビデンスが発表されたとき、本エントリーに追加いたします。
* 眼圧上昇が続く (遷延化する) と、視神経乳頭に障害が起こり、視野欠損を来たします (緑内障)。
Jap 氏の下記論文では(2001年)、本症候群 53眼中 14眼 (26.4%) が緑内障となっています。
* 原発開放隅角緑内障を合併することがあります。
* 消炎薬「副腎皮質ステロイド」の点眼や内服後、眼圧が上昇する体質「ステロイド レスポンダー steroid responder 」であれば、治療薬の選択、投薬期間に十分な注意が必要となります。
eMedicine - Posner-Schlossman Syndrome : Article by James H Oakman, Jr, MD
http://www.emedicine.com/oph/byname/posner-schlossman-syndrome.htm
http://www.emedicine.com/oph/topic137.htm
1948年, Posner 氏とSchlossman 氏 (共著)は「毛様体炎症状を伴う緑内障の反復発作を片眼に来たす症候群」を発表しました。
Posner A, Schlossman A: Syndrome of unilateral recurrent attacks of glaucoma with cyclitic symptoms. Arch Ophthalmol 1948; 39: 517.
本症候群の臨床像は、
軽度毛様体炎の再発
片眼性
発作期間は数時間から数週間
軽度の視力低下、広隅角眼、眼圧上昇、わずかな角膜後面沈着物を伴った角膜浮腫、瞳孔不同 (罹患眼は瞳孔径が大きい) を伴う虹彩異色の所見
正常視野
正常視神経乳頭
発作のないときは正常眼圧、正常房水流出率、正常負荷試験
であるとしました。しかし、その後、他の所見を伴う本症候群もみられることから、
ほとんどのケースでは、年齢 20-50歳である
両眼に発症することがある。異なる時期に起こり、ごくまれに両眼同時に発作をきたす。
眼圧上昇はぶどう膜炎の重症度とは釣り合っていない。眼圧上昇は確認しうる炎症反応より先行する (数日以内のことが多い)
も、臨床像に追加されました。
ポスナー シュロスマン症候群は良性疾患であるか?
Ophthalmology. 2001 May;108(5):913-8.
Is Posner Schlossman syndrome benign?
Jap A, Sivakumar M, Chee SP.
Department of Ophthalmology, Changi General Hospital, Singapore.
目的: ポスナー シュロスマン症候群 Posner Schlossman syndrome (PSS) の臨床経過を調査する。
研究デザイン: 比較症例のない後向き研究。
対象症例: 50症例 53眼。
方法: シンガポールの Singapore National Eye Centre ぶどう膜炎クリニックにて受診した PSS全患者の診察記録から緑内障性の眼障害やリスク因子についてレビューした。
主要な測定項目: 緑内障に一致した視野異常と視神経乳頭変化
結果: 男性 28症例、女性 22症例、初発時の患者年齢は平均 35歳であった。14眼 (26.4%) は PSSの頻回発作のため緑内障を来たしたと診断された。
罹患歴 10年以上の症例では、10年未満の症例に比べて緑内障を来たすリスクは 2.8 倍高かった (95%信頼区間 1.19-6.52)。9眼 (17%) は代謝拮抗薬を使用した緑内障ろ過手術を受けた。術後の経過観察期間は 15ヶ月から50ヶ月であった (平均 37ヶ月)。術後、4眼に虹彩炎のエピソードが続き、このうち 1眼は、虹彩炎とともに眼圧上昇が起こった。
結論: かなりの PSS患者は緑内障を発症するので、視神経乳頭の形状と視野については注意深くモニターする必要がある。
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