一般的に、白内障手術に比べて内視鏡的副鼻腔手術では重度の斜視が発生することがあります。また、複数筋損傷や動眼神経麻痺などでは、プリズム・レンズやプリズム膜を使用しても複視が完全に消失しない可能性があります。術前から眼窩内異常が存在し、斜視を呈することがある疾患、たとえば、眼窩下壁骨折、眼窩内壁骨折、甲状腺眼症、眼窩腫瘍などでは、術前の臨床所見・状態との比較が重要です (当エントリーでは掲載いたしません)。日本語訳は、ブログ主催者による[文献要約の抄訳]です。なお、下記の参考文献は、タイトル・趣旨「医療事故」として報告されたものではありません。
【球後麻酔】
白内障手術時、眼球後方に刺入した注射針、注入した局所麻酔薬による合併症。
論文 1: J Cataract Refract Surg. 2001 Mar;27(3):341-2.
Diplopia after cataract surgery.
Koide R, Honda M, Kora Y, Ozawa T.
School of Medicine, Showa University, Tokyo, Japan.
[抄訳]
複視を来たした 17症例 18眼について調査。数症例では、眼球は上方ないし下方偏位していたが、ほとんどの症例では、眼球運動障害は同一パターンではなかった。Hessチャートによる検査施行例 3例では、白内障手術1週以内に外眼筋麻痺を呈し、その後過動状態となり、1ヶ月後には眼位は戻った。1症例は 3ヶ月後に自然に改善し、眼位も良好となった。6症例は斜視手術を施行した。
論文 2: Klin Monatsbl Augenheilkd. 2000 May;216(5):295-7.
Vertical diplopia after cataract operation
Schacher S, Luthi M, Schipper I.
Augenklinik, Kantonsspital, Schweiz.
[抄訳]
上斜視群 4症例, 下斜視群 5症例, 合計 9症例。7例では、障害筋は過動となり、回復しなかった。7症例には垂直筋に対する斜視手術を施行し、このうち 1例のみ術後にプリズム・レンズを併用した。他 2症例は手術を行わずプリズム・レンズで納得がえられた。術後垂直斜視の病因として、障害された外眼筋内の線維化、拘縮 (麻酔薬の筋内直接注射による薬物中毒や筋内出血) が推測された。一方、術後上斜視は「前置糸 bridle suture」が原因の1つとなりうる。
【内視鏡的副鼻腔手術】
Endoscopic Sinus Surgery (ESS) では、術者が手術野・操作を誤ると眼窩内の組織を損傷することがあります。
論文 3: J AAPOS. 2004 Oct;8(5):488-94.
Strabismic complications following endoscopic sinus surgery: diagnosis and surgical management.
Thacker NM, Velez FG, Demer JL, Rosenbaum AL.
Jules Stein Eye Institute, Department of Ophthalmology, University of California, Los Angeles 90095-7002, USA.
[抄訳]
ESS後に斜視を来たした 15症例全例に内直筋障害がみられ、挫傷、血腫、神経麻痺、筋離断、筋組織の破壊であった。下直筋、上斜筋の損傷もあった。手術的な方法として、外眼筋の修復術や移動手術を眼窩より前方アプローチで行った。内直筋が起始部側の後方に 20mm以上残っており、収縮機能があれば、眼窩手術により筋修復が可能かもしれないが、障害がより高度であれば、外眼筋移動手術が必要となる。内・下直筋の同時損傷であれば、この移動手術の施行も困難となる。
論文 4: J Neuroophthalmol. 2004 Sep;24(3):225-7.
Inferior oblique paresis, mydriasis, and accommodative palsy as temporary complications of sinus surgery.
Bayramlar H, Miman MC, Demirel S.
Department of Ophthalmology, Turgut Ozal Medical Center, Inonu University, Malatya, Turkey.
[抄訳]
報告例 4: 手術症例;15才, 男子。慢性副鼻腔炎に対して両側内視鏡的篩骨洞手術、両側部分的下鼻甲介切除術、中隔形成術、Caldwell-Luc 手術を受けた後、一過性の上斜視、上転障害、同側散瞳、調節麻痺を来たした。術後画像診断では、眼窩内に異常は見出せなかった。プレドニゾロン 70mg/日の内服開始・漸減治療により、2か月以内に眼科的異常は消失した。隣接篩骨洞の手術操作に続発した動眼神経下枝障害により本所見がみられたとの報告例は 文献上 2例目である。
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