ポリヘキサメチレンビグアニド ( PHMB polyhexamethylenbiguanid ポリヘキサメチルビグアニド polyhexamethylbiguanid 商品名 Lavasept など)は優れた消毒効果のある薬剤のため、眼科領域においても手術野の消毒液、コンタクトレンズ用消毒液、点眼液用防腐剤として使用されています。しかし、下記の試験管内の実験のとおり、粘液ムチンが存在すると殺菌作用が著しく低下します。よって、ポリヘキサメチルビグアニドを含有するコンタクトレンズ専用洗浄液・消毒液・保存液(マルチパーパスソリューション)を使用する場合、「こすり洗い」 「すすぎ」を十分に行い、コンタクトレンズ表面に付着したムチン (眼表面や涙にも多く存在します)を除去することが大切です。
Arzneimittelforschung. 2003;53(5):368-71.
Inhibition of the anti-staphylococcal activity of the antiseptic polihexanide by mucin.
Ansorg R, Rath PM, Fabry W.
Institute of Medical Microbiology, University Essen, Essen, Germany.
[要約の邦訳]
消毒薬・防腐剤 Lavasept (LS, 高分子ビグアニド ポリヘキサニド biguanide polyhexanide, CAS 28757-48-4) は、黄色ぶどう球菌 Staphylococcus aureus を含む広範囲の細菌に対して殺菌作用を有します。1mlあたり、ポリヘキサニド 0.2-0.4mgに相当する濃度で創傷処置時の消毒に使用されます。鼻粘膜に定着した黄色ぶどう球菌を根絶する能力に関する基礎的データを得るために、抗ぶどう球菌活性に対するムチン mucin の影響を研究しました。感受性試験には disk agar-diffusion 法を用いました。黄色ぶどう球菌 (S.aureus) の2つの参考株 (メチシリン感受性黄色ぶどう球菌 methicillin-sensitive S. aureus ATCC 29213, メチシリン耐性黄色ぶどう球菌 methicillin-resistant S. aureus ATCC 33591)と新鮮な臨床分離菌 20株を使用しました。ムチンがない条件では、全株の増殖はポリヘキサニド濃度 0.1 mg/mlで抑制されました。試験培地内 0.25% ムチン存在下では、ポリヘキサニド濃度 0.4 mg/mlが全株の増殖を抑制するために必要でした。健常者の鼻汁内ムチン濃度よりもずっと低いムチン濃度である 0.5% および 1%では、ポリヘキサニドの治療濃度における抗菌活性が阻止されました。結論として、ムチンによる LSの不活性化は、鼻内の黄色ぶどう球菌の確実な除菌を妨げます。
ポリヘキサニドに関する論文はドイツの研究施設・医療機関からのものが多く、1997年頃に市販されたようです。予防目的と治療目的では使用する薬剤が全く異なるドイツの考え方は特筆に値します。
Ophthalmologica. 1997;211 Suppl 1:68-76.
Prophylactic use of topical anti-infectives in ophthalmology.
Kramer A, Behrens-Baumann W.
Institute of Hygiene and Environmental Medicine, Ernst-Moritz-Arndt-University, Greifswald, Germany.
[要約の邦訳]
感染症治療点眼薬を予防的に使用するときの適応は、
(1) あらゆる眼手術前に、眼窩周囲および経結膜的に投与したり、必要であれば、さらに術中に投与します;
(2) 新生児眼炎 ophthalmia neonatorum の予防法 Crede法として;
(3) 眼部が偶然、病原菌に汚染されたとき;
(4) 集中治療中の外科患者における結膜炎の予防のために;
(5) 角膜移植前のドナー眼球を消毒薬により洗浄するために;
(6) もし必要であれば、疫学的な状況が発生し、眼感染症予防を目的として;
第一選択薬は、polyvinylpyrrolidone-iodine 1.5% - 5% 濃度液(訳者注: PVP-I 和名 ポビドンヨード) です。他の感染症治療点眼薬は、polyhexanide ポリヘキサニド 0.02% または 0.01%液です(将来有望な医薬品, 現在承認される過程です)。
新しい消毒剤 ポリヘキサニド polyhexanide (クロルヘキシジン・ポリマー) による重篤なアナフィラキシー
Schweiz Med Wochenschr. 1998 Oct 3;128(40):1508-11.
Severe anaphylaxis to a new disinfectant: polyhexanide, a chlorhexidine polymer.
Olivieri J, Eigenmann PA, Hauser C.
Department of Internal Medicine, Geneva University Hospital.
[要約の邦訳]
クロルヘキシジン chlorhexidine の重合体であるポリヘキサニドを含有する消毒薬 Lavasept を整形外科的な介入中、外科的創部に接触させたあと重篤なアナフィラキシーを来たした 2症例 (18才, 女性. 15才, 男性)の症例報告を行う。製造メーカーによると、製品 Lavasept は最近発売され、スイスでのみ入手できる医療用消毒薬で、ポリヘキサニド単剤である。1症例は本剤との過去の接触を否定したが、両症例ともに以前、クロルヘキシジンに曝露していた。両症例ともに皮膚プリックテスト陽性であり、複数の対照症例は同テスト陰性であったので、ポリヘキサニドに対する即時型過敏症と考えられた。患者に対しクロルヘキシジンを用いた皮膚検査を行ったが陰性のままであった。新しい消毒剤 Lavasept との接触は、以前に本薬剤に曝露していなくてもアナフィラキシー反応の引き金となり得ると結論する。本剤がよくみられるアナフィラキシー発現物質 anaphylactogen であるか、今後はっきりするであろう。
ソフトコンタクトレンズの消毒効果については、厚労省の議事録の一部を引用いたします。
中央薬事審議会化粧品等特別部会(平成11年2月22日)議事録
http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9902/txt/s0222-2_15.txt
上略・・・それではコンプリート4品目について、申請者はアラガン株式会社でございますが、資料の調査報告書に沿いましてご説明させていただきます。 本品は、米国のアラガン社とWesley Jessen Corp.との共同により開発されました、塩酸ポリヘキサニド1ppmを有効成分として含むソフトコンタクトレンズ用の消毒液でございます。アラガン株式会社より申請されております。平均分子量は約2700でございまして、グルコン酸クロルヘキシジン等と類似の構造を有しているものでございます。作用機序といたしましては、細胞壁の破壊、細胞質膜の構造の変化、膜結合性酵素の阻害ということで細菌を死滅させるとされております。・・・中略・・・微生物学的検査では、消毒後5例のケース残液及びレンズ6検体から残存菌が検出されたことに関し説明を求めておりまして、本成分の作用機序から見て耐性菌発現の可能性が少ないと考えられること、消毒後の残存菌量及び残存菌の本製剤による消毒効果の結果から、消毒効果が十分であることを示す数値であるという説明がなされまして、ご了承いただいております。・・・下略
* 単位 ppm (parts per million, 100万分の1)とは、0.001mg/mlに相当する。
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