網膜剥離の予防的治療 -EBMでは有症状弁状網膜裂孔のみ有効-
http://cgi12.plala.or.jp/yamamura/topics/index.cgi?page=15
の解説文はご覧いただけましたでしょうか。"弁状"を呈する網膜裂孔の治療についてのみ、レーザー治療の有効性が科学的に裏づけられているという論文です(ジョンス ホプキンス病院 Wilkinson )。
翌年発表された第2論文でも、同様の結論にいたっていますので、異なる施設からこのようなEBMに基づく論文が発表された時点で要約してアップロードしたいと考えております。第2論文では、「網膜裂孔の発見頻度は、40才代以上で7%、格子状網膜変性の発見頻度は全年齢を対象とすると、8%」とのことです。
わが国では、従来から "年間1万人に1人が網膜剥離を発症する"というデータがあります。これらの数値からお分かりのように、10人に1人以上”網膜が弱い人”が存在し、普通に生活していても、網膜剥離の発生頻度は、(たとえば)”交通事故死”程度の頻度であるということです。
かつて、世界中(もちろん裕福な国に限りますが)でレーザー治療が積極的に行われてきました。その根拠の1つと思いますが、(たとえば、第2論文に記載されているように)実際に網膜剥離眼の約30%で、網膜裂孔や格子状網膜変性が発見できるから、レーザー治療をするべき・・・という考え方が先行したようです(正しい科学的裏づけのないまま?)。独ハンブルグからの報告では、網膜剥離 3447名 を調査すると、7.2%の症例で"弱いところ"にすでに予防的なレーザー治療がなされていたそうです。予防的なレーザー治療後に網膜剥離を来たしたケースでは、光凝固後1年以内に半数、その後約10年以内に半数が網膜剥離にいたっています。また、網膜剥離の責任病巣は、66%の症例で予防的な治療瘢痕部にみられ、レーザー部位が責任病巣でなかったケースより、剥離出現の時期が早かった(期間は1/2に短縮)そうです。なお、論文内容の質は 後者(独)<前者(米国)となりますので、誤解のないようにお願いいたします。
”定期検診の意義”や”目を擦ることの弊害”は、以前から知られていることです。しかし、"網膜自体が弱い",”網膜裂孔を起こしやすい”という表現は、素人の方には、インパクトが強すぎますので(10人中1人以上の確率でそうなのですから間違いではないですが、医学的にはあまり強調すべきことでもありません)、”網膜剥離になるような弱さなのか??”主治医にはっきりとお尋ね下さい。もちろん、白内障手術を受けた後、アトピー皮膚炎患者、硝子体手術後状態・・・など、”弱い”ことがはっきり科学的に証明されている疾患・状態もありますが。
[文献名]
Evidence-based medicine regarding the prevention of retinal detachment.
Wilkinson CP.
Trans Am Ophthalmol Soc. 1999;97:397-404; discussion 404-6.
Evidence-based analysis of prophylactic treatment of asymptomatic retinal breaks and lattice degeneration.
Wilkinson CP.
Ophthalmology. 2000 Jan;107(1):12-5; discussion 15-8.
[追記 2005/4/13]
裂孔原性網膜剥離 ( Rhegmatogenous Retinal Detachment RRD ) の年間発生頻度については、エントリー「網膜剥離 年間発生頻度 危険因子」
http://infohitomi.biz/archives/000032.html
をご一読下さい。
[追記 2005/4/23]
無症状の網膜裂孔ないし格子状変性に対する外科的治療の有効性については、エントリー「無症状の網膜裂孔 格子状変性」
http://infohitomi.biz/archives/000033.html
をご一読下さい。
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