monofixation 症候群とは、斜視などの疾患のために両眼から同時に視覚情報が入力できず(片眼からの情報入力が抑制される)、片眼から入ってきた視覚情報だけを脳が処理する状態のことで、両眼視機能は標準以下となる。
Gupta BK,他は サイトwww.eMedicine.com 上の http://www.emedicine.com/oph/topic566.htmにて、2歳までに眼位が8PD以内に手術矯正できた先天性内斜視症例の40%~50%はmonofixation 症候群になると報告している。本症候群の定義は、具体的には、Worth4灯法による融像検査にて近見30cm周辺融像・遠見5m非固視眼抑制、立体視差 300-67秒、眼位 8PD以内、などである。
alignment アラインメントを「眼位」と訳し、monofixation 症候群は適切な邦訳がないようですので原文のままとしました。PDはPrism Diopter(プリズムジオプトリ)の略で視覚角を表す単位です。両眼視機能とは、融像、立体視できる目の機能のこと。今後、読みやすいように適宜編集します。
[追記 2005/8/4] monofixation syndrome "単眼固視症候群" [財団法人 日本眼科学会 眼科用語集 第4版より]
眼科論文 先天性内斜視に関するEBM(EBMはエビデンス、科学的根拠に基づく医療のこと)
J Pediatr Ophthalmol Strabismus. 2003 Mar-Apr;40(2):70-3;
Evidence-based medicine in congenital esotropia.
Gunton KB, Nelson BA.
Department of Pediatric Ophthalmology, Saint Christopher's Hospital for Children, Philadelphia, Pennsylvania 19134, USA.
[要約]
先天性内斜視は生後6ヶ月までに症状が現れる。発症頻度は1~2%。治療法は、斜視手術による眼位(視軸)の矯正であり、両眼視機能が術直後より安定することを目標とする。
【術後の眼位と長期安定性(予後)】
Kushner & Fisher(1996)は、術後6ヶ月目の眼位はその後の長期間の安定性を予測する際に適していると報告した。
手術5年後も8PD以内の眼位である頻度は、術後6ヶ月目の時点で正位であれば 96%、8PD以内の内斜視であれば 80%、8PD以内の外斜視であれば 20%であった。また、両眼視機能については、手術5年後に立体視を有する症例の頻度は(術後6ヶ月目の眼位が正位、8PD以内の内斜、8PD以内の外斜であれば)それぞれ、65%、28%、0%であった。
また、Prieto-Diazら(1998)によると、内斜視術後の monofixation 症候群60症例では、術後 35%の症例が眼位8PD以上となった。眼位が8PD以上となった症例の半数は外斜視となっていた(術後平均7.6年)。術後43%の症例は内斜視が再発していた(術後平均11年)。
【原 因】
内斜視の原因説(訳は省略します)。
両眼視機能の正常な発達過程において、立体視は、生後3ヶ月から5ヶ月の時期に可能となる。この時期では、たとえ先天性内斜視の患児であってもプリズム矯正をすると、立体視できる。他の研究においても、両眼視機能の発達に重要な時期は、生後数ヶ月に始まり、生後1歳から3歳にかけてピークがあることが分かっている。
両眼視機能を達成できる手術時年齢について:
【2歳】
生後2歳までの手術により両眼視機能が達成できて、それ以降では達成率は有意に低下することが知られてる。
Ingらによる臨床成績(1983):2歳前 75% 2歳以降 12% (融像能検査:Worth4灯法 融像能検査:Polaroid Titmus vectograph)。
Zak & Morinら(1982) もIngと同様の報告を行い、融像能は生後9ヶ月までの治療で92%の症例で改善し、その後の治療では低下すると報じた。
【1歳】【6ヶ月】
Birchら(1998):立体視 生後6ヶ月前 57%(80例中)、生後7ヶ月から12ヶ月 27%
Birchら(1995):立体視 生後7ヶ月から12ヶ月 45%、生後13ヶ月から24ヶ月 32%
両眼視機能に影響する因子
【手術年齢】
Wrightら(1994):生後2.5ヶ月から3ヶ月での手術推奨。
7例中3例において、立体視差(視差)100秒 以上の機能が得られた (Titmus テスト)。
補足 [立体視差(視差):参照ページ]
http://infohitomi.biz/archives/2004/04/post_1.html
他施設による研究(1995,1999):生後6ヶ月以下での手術例16例の成績では、6ヶ月児の手術成績と比べて両眼視機能の質において差はなかった。3ヶ月で手術を行った1例のみ立体視差(視差)40秒が得られた。
研究グループの発表
■ Early Surgery for Congenital Esotropia trial and Retina Foundation of the Southwest study group
生後2ヶ月から4ヶ月の時点で40 PD以上の恒常性内斜視の所見があると、自然に改善しない。
■ Pediatric Eye Disease Investigator Group
生後12週以降では、常に40 PDを越える内斜視があると、自然に改善しない。
両研究グループの発表から、症状が当てはまる患児は治療を考慮すべきである。
【眼位ずれの期間】
Birchら(2000):両眼視機能については、眼位が改善し安定している期間が手術年齢より重要である(129症例の統計解析より)。
両眼視機能が改善すると、眼位も安定する。
再手術の頻度:立体視あり14%、立体視なし 32%
Ing & Okino(2002):1歳までに眼位が矯正できた症例などに良い結果が得られており、眼位ずれの期間をより短縮することが立体視の質の向上のために望まれる。
【眼球運動異常の合併】
Helvestonら(1999):交代性上斜位、眼振(潜伏眼振、顕性潜伏眼振)、調節性内斜視、他の潜伏性斜視などを合併すると、手術年齢因子より立体視機能への影響が大きい。
Birchら(2000):立体視できる症例では、交代性上斜位の合併例25%。立体視できない症例では、交代性上斜位の合併例63%。
補足 [交代性上斜位:分かりやすい参照ページ例]
http://tamakobo.s8.xrea.com/
補足 [眼振:分かりやすい参照ページ例]
http://www.geocities.co.jp/SweetHome-Green/5136/
【術後の微小斜視 microtropia】
項目【術後の眼位と長期安定性(予後)】を参照
以上
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