急性後部硝子体剥離に伴う初発網膜裂孔の治療後に発生する【その後の網膜裂孔】の頻度と特徴について
【発症頻度】
本論文⇒ 12.2 %
他の論文・報告⇒ 3~27 %
【要約、考案の結論など】
急性後部硝子体剥離によって網膜裂孔を来たした場合、初発裂孔治療後に、頻度は低いものの(12.2%)、【その後の網膜裂孔】を発症することがあります。
【その後の網膜裂孔】は1年以内に発生する比率が高く(63%)、しかも無症状のことがあります(60%)ので、急性後部硝子体剥離を伴う網膜裂孔の症例については、発病後の1年間は十分な定期検査が必要です。散瞳検査を2~3ヶ月毎(半年後まで)、3ヶ月毎(1年後まで)に行うことが安全かつ熱心な対応といえます。
Am J Ophthalmol. 2004 Aug;138(2):280-4.
Determination of the incidence and clinical characteristics of subsequent retinal tears following treatment of the acute posterior vitreous detachment-related initial retinal tears.
Sharma MC, Regillo CD, Shuler MF, Borrillo JL, Benson WE.
Vitreoretinal Service, Department of Ophthalmology and Visual Sciences, University of Illinois at Chicago Eye and Ear Infirmary, Chicago, USA.
以下は本論文の邦訳です(一部)。
■ 調査研究の目的:急性後部硝子体剥離が関与した網膜裂孔の治療後に、【その後の網膜裂孔】が発生する頻度を調べる。
(邦訳)【その後の網膜裂孔】:subsequent retinal tear(文献では SRTと略). 遅発型の網膜裂孔のこと。
■ 対象、調査法:1996年1月から1999年12月までの4年間、米国 Wills Eye 病院にて、急性後部硝子体剥離に伴う網膜裂孔と診断され網膜光凝固術、網膜冷凍凝固術(ないし、併用治療)を行った症例を対象として retrospective chart review を行った。
注:retrospective chart review ⇒ 調査期間、経過観察中に受診した対象症例の診療録(過去、現在の受診記録)などを詳細に調査する方法とお考え下さい。
■ 除外症例:
(1) 下記の既往歴がある症例は対象から除外した。
眼外傷(眼組織の損傷を起こしうる重度のもの)
眼内手術
眼疾患(進行した緑内障、進行した糖尿病網膜症)
眼内炎症
硝子体出血
ピロカルピン点眼液長期使用
患眼が以前に網膜裂孔や網膜剥離を来たした
(2) 経過観察3ヶ月未満
急性後部硝子体剥離:1ヶ月以内に後部硝子体剥離に伴う光視症、飛蚊症、視力低下の症状を(新たに)自覚したときの病名。
■ 結 果
137症例 155眼。
平均 54.6才 (28-79才)
男性74人,女性63人
経過観察期間 中間値 13ヶ月 (3-157ヶ月)
眼症状
飛蚊症 122例 89.0%
光視症 85例 62.0%
両症状 70例 51.0%
上記の症状自覚後1ヶ月以内に受診した症例: 127例 92.7%
初発網膜裂孔
右眼のみ 67症例 左眼のみ 88症例 両眼 18症例
155眼中、合計221個の網膜裂孔が発見された(一眼あたり平均 1.4個)。
221個の内訳:
裂孔の形態
152個 68.77% 弁状網膜裂孔
69個 31.22% 遊離網膜弁を伴う網膜裂孔
裂孔の部位
上耳側網膜 57.2%
治療内容
レーザー治療 124症例 90%
網膜冷凍凝固術 10症例 7.3%
併用治療 3症例 2.2%
初発裂孔の治療は100%成功した。
【その後の網膜裂孔】
経過観察中、155眼中19眼 12.2 % に発見された (右9眼 左10眼)。
網膜裂孔数 25個(19眼中) 一眼あたり1.3個
裂孔の部位
上耳側網膜 60%
裂孔の形態
25個すべて弁状網膜裂孔
治療内容
14眼にレーザー治療(ないし、網膜冷凍凝固術)の単独治療を行った。
全例で治療成功
5眼は網膜剥離へ進展していたため、
4眼-強膜バックリング手術
1眼-強膜バックリング手術+硝子体手術
を施行した。
全例完治(網膜復位)
【その後の網膜裂孔】の出現時期 (初発網膜裂孔の治療日から、19眼中)
9眼 1ヶ月以内 ○4 △2
3眼 3~6ヶ月 ○1 △0
3眼 6~12ヶ月 ○1 △1
3眼 3年~4年 ○3 △2
1眼 4年以降 ○1 △0
眼数:○ 眼症状あり △ 網膜剥離合併
急性後部硝子体剥離のため、1年以内に【その後の網膜裂孔】を発症した症例15眼では6眼のみに自覚症状があった。一方、1年以降に【その後の網膜裂孔】が発症した4眼では全例に自覚症状があった。
【考案(一部邦訳)】
網膜裂孔が遅れて発症する理由(および推論)
(1) 後部硝子体剥離は初回診察時のころは未だ不完全であり、その後進行し続けるため。後部硝子体剥離を呈している全症例を調査したところ、約半数 50%の症例では「不完全」であったとの報告があります。網膜に接着している部分の硝子体が網膜を牽引し続け、より脆弱な網膜領域から裂孔が発生するというものです。
(2) 治療行為が関与する可能性があります。しかし、治療法が網膜冷凍凝固術ではなく、光凝固術後に発生した症例では、この可能性は低いと考えます。
(3) 初回診察時に既に発生していたが、発見できなかったというものです。
いくつかの論文から、網膜裂孔が遅れて発症することは、まれな事実ではないですので、これらの原因・理由が複合的に関与していると考えられます。
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