B型慢性肝炎の治療法の1つ【ステロイド離脱療法】の論文(要約の邦訳)を引用し、臨床的反跳(リバウンド)現象の具体例(臨床例)をお伝えいたします。
副腎皮質ステロイド薬は少量では消炎作用が主体ですが、投与量を増やすと免疫抑制作用が発現します。免疫抑制効果のある量をウイルス肝炎患者に継続投与しますと、肝炎ウイルスは急速に肝細胞内で増殖を開始します。その後、ステロイド薬を休止すると、生体の免疫能が回復するため、ウイルスを一斉攻撃します。免疫反応の結果、ウイルスやウイルス感染細胞が破壊されるため、肝炎症状の一時的悪化の後、ウイルス量が激減し、肝機能が安定化するのですが、激しい免疫反応の結果、肝不全に至るケースがあり、今日では主流の治療法ではありません。
論文中の「離脱」とは、単に"薬剤を休止する"という意味で用いられていますが、実際には副腎皮質ステロイド薬を数週間以上使用すると、間脳視床下部-下垂体-副腎皮質系(の negative feedback)を介して、副腎のステロイド分泌機能が低下(長期投与では、停止、ないし、時に副腎皮質が萎縮)します。よって、「離脱」後、一時的(ないし、永続的に)副腎皮質ステロイドが血液中に不足した状態になり、いろいろな全身症状が発症します。これを「ステロイド離脱症候群 ステロイド離脱症状」とよびます。重篤な症状は、血圧低下などのショック症状です。重篤な離脱症状を避けるためには、突然休薬せず投与量を日数をかけてゆっくり漸減し、長作用時間型から短時間作用型の薬剤に変更する方法が一般的です。
一方、「臨床的反跳(リバウンド)現象」とは、本論文では、ウイルスをターゲットとする激しい免疫反応および随伴する肝臓の変化のことですが、他にステロイド依存性となったアトピー皮膚炎患者が突然休薬したときの皮膚症状の急性増悪、向精神薬休薬時の副作用などがよく知られています。
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インターフェロン治療前の副腎皮質ステロイド離脱に伴う重篤な臨床的反跳(リバウンド)現象
J Gastroenterol Hepatol. 1996 Feb;11(2):143-7.
Severe clinical rebound upon withdrawal of corticosteroid before interferon therapy: incidence and risk factors.
Sheen IS, Liaw YF, Lin SM, Chu CM.
Liver Research Unit, Chang Gung Memorial Hospital, Taipei, Taiwan.
インターフェロン治療前のプレドニゾロン前治療離脱の際に生ずる臨床的反跳(リバウンド)現象・肝不全の頻度と危険因子を解析するため、2つ異なるランダム化比較臨床試験に登録された慢性ウイルス肝炎患者(台湾人)の治験成績を比較した。
グループ1:41症例(慢性B型肝炎)プレドニゾロン30mg/日×3週間⇒15mg/日×1週間⇒休薬×2週間⇒リンパ芽球様細胞由来インターフェロン治療
グループ2:59症例(慢性B型肝炎)プレドニゾロン40mg/日×2週間⇒30mg/日×2週間⇒20mg/日×2週間⇒休薬×2週間⇒インターフェロンアルファ2a治療
臨床的反跳現象の頻度はグループ2では67.8%、グループ1では41.5%であり、グループ2の方が有意に多かった(P < 0.01)。反跳現象時の最高血清トランスアミナーゼ値は両群間で差がなかった。黄疸および症状を伴う反跳現象はグループ2の4症例に出現した(1例は肝硬変)。肝不全は臨床的反跳現象を呈したグループ2の症例中5.0%(グループ2全体の3.4%)にみられた。
反跳現象が多かった症例:プレドニゾロン40 mg処方例 (オッズ比 3.0; 95%信頼区間 1.3-6.6; P < 0.01)、非肝硬変症例 (オッズ比 6.2; 95%信頼区間 1.2-32.1; P < 0.02) 。しかし、肝硬変患者にひとたび反跳現象が起こると、肝不全に至る相対危険度は非肝硬変患者の16倍である。
結論:慢性ウイルス肝炎患者に短期間ステロイド薬を処方したとき、肝硬変の有無に関わらず東洋人では肝不全になることがあるので、臨床医は注意が必要である。
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