国内では、パソコン使用者、コンタクトレンズ装用者、ドライアイ患者は、目の乾燥感の緩和のために、「人工涙液型点眼液」を薬局で購入したり、本剤を医療機関にて処方されたりすることが少なくないと思います。潤滑剤 (ルブリカント lubricant) とは、欧米諸国では一般的な薬学・医学用語として扱われており、以前から数多く販売されています。国内では、潤滑剤の発売がようやく本格化しそうですが、残念なことに「潤滑剤」を商品に表示することは許可されていないようです。国内製品の一部では、ヒドロキシプロピル・メチルセルロース(HPMC), ポビドン(povidone) などのルブリカントは「粘稠化剤」と表示されています。人工涙液型点眼液、ソフトコンタクトレンズおよびソリューションの中の「有効成分, 成分」を見ると、「潤滑剤」であるか否か確認できますので、薬剤師や眼科医にお尋ね下さい。
なお、「潤滑剤」使用による効果は下記論文のとおり、物理的、生理学的な特性による効果だけでなく、心理的効果もあるようです。
コンタクトレンズソリューションに含まれる潤滑剤 ルブリカントの生体内および生体外の効果
Ophthalmic Physiol Opt. 2002 Jul;22(4):319-29.
In vitro and in vivo effects of a lubricant in a contact lens solution.
Thai LC, Tomlinson A, Simmons PA.
Department of Vision Sciences, Glasgow Caledonian University, UK.
[要約の邦訳]
目的: 眼潤滑剤 ヒドロキシプロピル・メチルセルロース(HPMC hydroxypropyl methylcellulose) を含有するマルチパーパスコンタクトレンズソリューション (訳者注: 洗浄・すすぎ・保存液のこと)の物理的特性と涙液層機能について研究した。
方法: 実験室において、生体外で一晩漬けた overnight soak 後、HPMCの有無によるマルチパーパスソリューションの湿潤特性とハイドロゲルレンズに対するHPMCの結合力を測定した。HPMC含有、非含有のマルチパーパスソリューションを使用している 35名のハイドロゲルレンズ装用者を対象として、涙液生理学を評価した。
Pre-lens tear evaporation rate (TER) レンズ前面涙液蒸発速度
tear thinning time (TTT) 涙液薄層化時間
tear film structure (TFS) 涙液層構造
を記録し、自覚的反応を(データとして)取得した。
結果: 実験による測定値は、一晩ソリューションに漬けたあと、HPMC含有溶液では湿潤性改善とレンズからの持続的な HPMC放出を示唆していた。HPMC含有溶液の使用時、Pre-lens TTT は延長し (p < 0.001), pre-lens TFS は改善した (p = 0.034)。Pre-lens TER と自覚的症状の比較では、有意な差がなかった。
結論: 体外、生体内の結果は、ハイドロゲルレンズ上に、液層をより厚く持続的に形成し、コンタクトレンズ装用者の涙液機能改善に導くHPMC (の特性)と一致する。
ソフトコンタクトレンズ潤滑剤の自覚症状とレンズ脱水に対する効果
CLAO J. 1991 Apr;17(2):114-9.
The effect of soft lens lubricants on symptoms and lens dehydration.
Efron N, Golding TR, Brennan NA.
Department of Optometry, University of Melbourne, VIC, Australia.
[要約の邦訳]
ソフトコンタクトレンズ潤滑剤の効果と作用機序を確認するため、無作為対照化二重盲検試験 controlled, double-masked, randomized studyを行った。症状を有する 30名のソフトコンタクトレンズ (hydroxyethylmethacrylate HEMA) 装用者は、6時間の装用中、2時間毎に生理食塩水、ソフトレンズ潤滑剤 2剤のうちの1剤のいずれかを点眼し、レンズ含水率と乾燥症状について評価された。眼乾燥感が短期間または長期間にわたり自覚的に緩和することは、ソフトコンタクトレンズ潤滑剤 2剤で認められた(ANOVA, P < 0.05)。しかしながら、どちらの潤滑剤であっても生理食塩水を有意に上回ることはなかった。コンタクトレンズの脱水はどのような点眼液であっても有意に減少しなかった。ソフトレンズ潤滑剤による症状緩和の理由として物理的(レンズの加湿)や生理学的な根拠よりむしろ心理的な理由を軽視してはいけない。
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