日本人加齢黄斑変性(症)に対するVerteporfinを用いる光線力学療法
■ (誤 ×)黄班 (正 ○)黄斑 ⇒網膜黄斑部に発生する加齢に伴う目の病気です。
■ 滲出型(ないし、ウエットwet タイプ)の一部が本治療法の対象となります。
■ 同義語
Verteporfin治療, Verteporfin使用による光線力学療法, 光化学強化療法, ビスダイン治療, 光線力学療法(PDT),
■ 光感受性物質の1つ ベルテポルフィン verteporfin 注射液を使用します。
商品名:ビスダイン Visudyne® 静注用15mg (一般的な使用上の注意)
» http://www.novartis.co.jp/product/vis/si/si_vis00.html
副作用
» http://www.novartis.co.jp/product/vis/ka/ka_vis03.html
■ 日本においても健康保険の対象疾患となりました。
■ 加齢黄斑変性症に対する光線力学的療法のガイドライン(日本眼科学会)
http://www.nichigan.or.jp/member/guideline/karei.jsp
■ 論文紹介
日本加齢黄斑変性トライアル研究班(JAT)
Japanese Age-related Macular Degeneration Trial Study Group
が発表した1年目(12ヶ月)の治療成績等について
トライアルとは「臨床試験」のことです。
今日の臨床試験(治験)では、治験参加者を無作為に偽薬群(対照群)と治療群とに割り付けるランダム化臨床試験 Randomized Trial が推奨されていますが、加齢黄斑変性に関しては、すでに白人を対象としたランダム化臨床試験(TAP研究など)が行われ本治療法の有効性が確立しています。よって、偽薬を使用する臨床試験は医療倫理的に正当化できないとして、偽薬を使用せず、無作為割付も行わないオープン試験が行われました。(なお、TAP研究では、2年目までランダム、3年目はオープンに切り替えているようです)
Am J Ophthalmol. 2003 Dec;136(6):1049-61.
Japanese Age-Related Macular Degeneration Tial (JAT) Study Group.
Japanese age-related macular degeneration trial: 1-year results of photodynamic therapy with verteporfin in Japanese patients with subfoveal choroidal neovascularization secondary to age-related macular degeneration.
論文要約中の結論
「日本人に見られる網膜中心窩下脈絡膜新生血管に対するVerteporfin治療は、白人患者を対象に行われた同治療法と安全面では同等で、視力結果や血管造影所見を比べると同等、ないしより良好な成績であり、日本人に対する使用を支持する結果であった」
【方 法】
参加施設:下記の国内5施設(眼科学教室)
大阪大学医学部
日本大学駿河台病院
関西医科大学
岡山大学医学部
九州大学医学部
具体的な治療法等については省略します。
【結 果】
日本人 64症例(男45, 女19, 平均70歳, 中央値71歳):治験基準 50歳以上
45症例(70%)は喫煙者(過去ないし現在):治験基準 狭心症などの合併例は対象外
過去にレーザー治療を受けた症例:3例(5%):治験基準 黄斑部散在レーザー照射などを受けた症例は対象外
治療前視力 およそ0.2 :(※注 Snellen視力による換算値を訳者がさらに換算しました。 平均、中央値ともに同一数値。原論文を参照して下さい):治験基準 最高視力 0.1以上~0.5以下
60症例(94%)では、
CNVの面積: 病変全体の50%以上 (※注 CNV:脈絡膜新生血管)
CNVのタイプ 50症例(78%) classic, 16症例(25%) predominantly classic(病変全体の50%以上がclassic タイプ)
34症例(53%)では、minimally classic(病変全体の50%未満がclassic タイプ)
9症例(14%)では、occult CNV のみ
CNVが中心窩にある(または、推測される): 57症例(89%)
治療開始前に出血を伴う: 57症例(89%)
CNVの原因は加齢黄斑変性によるものだけ: 62症例(97%)
病変の面積 6MPS以下: 57症例(89%) 1MPS disk area=2.54mm² :治験基準 2MPS disk area 以上
治療対象域: 最大距離で平均 3,229µm 中央値 3,060µm :治験基準 網膜面上の直線距離で最長5,400µmmを越える病変であれば対象外
61症例(95%)が12ヶ月間の治験を完了。
治療回数 中央値 3回
治療成績(治療前と12ヶ月後の比較)
【視 力】(訳者注: 中央値の結果のみ記載します)
The median visual acuity score for the study eye increased from 50.0 (20/100 approximate Snellen equivalent) at baseline to 56.5 (20/80+2 approximate Snellen equivalent) at the month 12 examination (Figure 1).
治療眼の視力は(中央値でみると)、治療前に比べて12か月後、5.0 letters (approximate Snellen equivalent "近似スネレン等価視力" 1.0ライン) 改善した。未治療眼の12か月の視力変化(中央値)は、1.0 letters ("近似スネレン等価視力" 0.2ライン) の増加であった。
[訳者注: 下記の視力値は、分数視力(Snellen)を、さらに日本で一般的な国際標準小数視力表示に訳者が換算したものである.]
治療前 0.2 ⇒ 治療後 0.25より少し良い
【血管造影所見】
classic CNVの増加 12症例(19%)
classic CNVからの蛍光色素漏出停止 32症例(50%)
occult CNVの増加 9症例(14%)
occult CNVからの蛍光色素漏出停止 49症例(77%)
病変サイズ 3MPS以下 36症例(56%) ⇒ 41症例(64%)
【有害事象】
64症例中58症例(91%)
治療に関連したもの:27症例(42%) , 220事象中59事象(27%)
大部分が軽度ないし中等度
重症8症例(13%)
2症例:心筋梗塞と腹部大動脈瘤の悪化(1例、治療に関連した)、網膜下出血による急激な視力低下(1例、治療に関連した)
ただし、薬剤の中毒作用を証明するものはなかった。
重篤な有害事象
64症例中11例(17%)
4例(治療に関連した)、死亡例 なし
脳梗塞
7日目の視力低下(3ヶ月後に治療前視力までに回復)
網膜下出血による急激な視力低下(治療前視力0.3程度から最終視力0.08に低下)
心筋梗塞と腹部大動脈瘤の悪化
【他臨床試験との比較、有害事象】
眼部
治療眼の視力低下 14/64(22%):重篤な視力低下2例(3%)を含む
硝子体出血 なし
網膜毛細血管循環途絶 なし
眼部以外
注射部 4/64(6%)
注射後の背部痛 1/64(2%)
薬剤アレルギー なし
光線過敏症 なし
==
論文要約はここまで。
関連ページ
■ 【血管新生を抑制する新薬 】
angiostatic steroid "Anecortave acetate"
ステロイドホルモンには眼副作用(白内障、緑内障の誘発)が知られていますが、これら有害作用が発現せず、血管新生のみ抑制する新薬 angiostatic steroid "Anecortave acetate" による治験が米国で行われました。
Ophthalmology. 2003 Dec;110(12):2372-83;
Anecortave acetate as monotherapy for treatment of subfoveal neovascularization in age-related macular degeneration: twelve-month clinical outcomes.
D'Amico DJ, Goldberg MF, Hudson H, Jerdan JA, Krueger DS, Luna SP, Robertson SM, Russell S, Singerman L, Slakter JS, Yannuzzi L, Zilliox P; Anecortave Acetate Clinical Study Group.
本論文の和訳ページ
● http://infohitomi.biz/archives/000019.html
要約の和訳ページ
● http://www.qqiac.com/archives/000049.html
また、アルコン社ホームページ
http://www.agingeye.com/diseases/other/steroids.php
「滲出型加齢黄斑変性(症)」を対象として、すでに米国食品医薬品局(FDA)が治療承認した上記の Visudyne® photodynamic therapy (PDT)と"Anecortave acetate"単剤治療との比較臨床試験が進行中です。
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