約20年前に命名され、ICG赤外蛍光眼底造影などの検査法の普及により、新たな1つの疾患単位として確立し、国内でも報告例が増加している目の病気です。
Polypoidal choroidal vasculopathy (or, polypoid choroidal vasculopathy PCV )
「ポリープ状脈絡膜血管症」の総説論文の内容は以下のとおりです。なお、本論文では、著者らは1983-2002年の20年間における発表論文の検索 (Medline) を行っており、米国、日本、中国、アイルランド、フランス、ドイツ、イタリアからの報告例が紹介されています。本論文発表後、台湾、スペイン、ギリシャからPCV症例の報告がありました (訳者がPubMedを利用し、Medline検索しました)。
Surv Ophthalmol. 2004 Jan-Feb;49(1):25-37.
Polypoidal choroidal vasculopathy.
Ciardella AP, Donsoff IM, Huang SJ, Costa DL, Yannuzzi LA.
The LuEsther T Mertz Retinal Research Center, Manhattan Eye, Ear and Throat Hospital, New York, New York 10021, USA.
【PCV報告】
Yannuzzi LA. (1982): idiopathic polypoidal choroidal vasculopathy (IPCV) と命名.
Kleiner RC. 他 (1984): "後部脈絡膜出血症候群" として報告。
Stern RM, 他 (1985): "黒人婦人に発症した多発性再発性網膜色素上皮剥離"として報告。
病理像
脈絡膜内層の静脈系の異常。菲薄化した血管壁を有する拡張血管がある。血管瘤の集合体となったり、拡張した管状構造を形成し、病変が拡大すると、臨床像として「大きな赤橙色の網膜下腫瘤 (reddish-orange subretinal mass)」を呈するようになる。ICG赤外蛍光眼底造影検査では、脈絡膜内層から網膜外層に向かって突出した多発性のポリープ状(polypoid)所見となる。
臨床像
【特徴的所見】
視神経乳頭周囲や黄斑部網膜にみられる。
拡張した脈絡膜血管網を形成する。
血管網の末端はオレンジ色の膨隆した楕円形ポリープ状の拡張所見を呈する。
【随伴所見】
再発性網膜下出血、硝子体出血がみられる。
線維性瘢痕病巣は比較的少なく、網膜血管には異常所見がなく、病的近視や眼内炎症の所見もない。
PCVに続発した慢性黄斑部網膜剥離のため網膜毛細血管症を来たした症例がある。
【両眼性疾患】
片眼にPCVを発症した症例のほとんどは、最終的に他眼にも同様の所見を来たす。しかし、数例では10年以上経過観察しても、他眼に発症していない。
※訳者注:人種や経過観察期間によって異なる。日本人、中国人を対象とした報告では、片眼性が多い。
【年 齢】
診断時年齢は、50才~65才が多い。
平均年齢 60.1才 通常、白人では、より高齢発症である。
発症年齢 20才代~80才代。
【性 別】
圧倒的に女性に多い。女性:男性 = 4.7:1
※訳者注:人種によって異なる。日本人、中国人を対象とした報告では、男性が多い。
【人 種】
アフリカ系アメリカ人、アジア人種に多い。
白人では、occult CNVを有する374眼中 14眼 (4%)は PCVと診断された (ICG赤外蛍光眼底造影検査にて)。滲出型加齢黄斑変性を有する白人患者の 8-13%に PCV が発見される。大きな出血と滲出性感覚網膜剥離を呈しドルーゼのない症例では、PCVはその原因の85%を占めるとの報告もある。
日本人では、色素上皮剥離と脈絡膜新生血管を伴う 164眼中 58.5%に PCVが発見されている。特に、出血性色素上皮剥離であれば、PCVの発見頻度は 70%となる。さらに、男性が多く (69%), ほとんどが片眼性 (91%) であり、平均年齢 (65.7才) も高齢化しているとの日本人を対象とした調査報告があり、中国人も男性、片眼性が多い。
【ポリープ様血管】
大きさ:大、中、小と分類する。脈絡膜血管板内での発生部位がより外側であれば大きくなり、中間部であれば小さい。
部位:視神経乳頭周囲が多い。黄斑部網膜の中央や周辺中間部網膜にも発症する。片眼において単発、多発する。
【自然経過】
しばしば、寛解-再発の経過となる。臨床的には、慢性、多発性、再発性の漿液血性剥離 (網膜色素上皮および感覚網膜) を伴い、視力は長期間にわたり保たれる。
漿液血性黄斑網膜剥離を繰り返しても、「加齢黄斑変性」の末期にみられる明瞭な線維性増殖を来たすことはない。
中心窩に慢性萎縮やのう胞変性を伴うと、視力低下は高度となる。他に、硝子体出血、円板状瘢痕、中心視力低下のケースもある。
2年間経過観察のみ行った日本人 12症例14眼では、半数は良好な経過であり、残り半数は出血をときどき来たし、黄斑変性、視力低下に至っている。
【全身疾患】
PCVの発生・進行因子: 高血圧、後天性網膜血管瘤(関連性に否定的な見解あり)
鎌状赤血球症、視神経乳頭メラノサイトーマの合併例あり。
【診断法、鑑別診断】
邦訳は省略します。
【治療法】
PCV に対する治療法は未だ確立されていない。
■ 中心視力低下を来たすような持続性、進行性の滲出性変化がなければ、経過観察にとどめる (論文著者の推奨)。
■ 造影剤の漏出所見のあるケースでは、熱エネルギ-を発生する従来タイプのレーザー装置による治療にて漿液血性病変の吸収・改善が得られるかもしれない。
■ 手術治療: 出血例では、多くのケースにおいて中間透光体の混濁除去と視力回復のために硝子体手術が必要となる。黄斑下出血に対する手術成功例 (解剖学的成功) が報告されている。しかし、黄斑下手術の価値については、加齢黄斑変性症では再発と視力改善度が不良であることから、疑問視されている。黄斑移動術も治療候補の1つであるが、多くのケースでは PCVが比較的広範囲であり、本手術は重篤な合併症が多い。
■ 経瞳孔温熱療法 (transpupillary thermotherapy): 加齢黄斑変性の occult CNVに対する有用性はあるかもしれないが、PCVに対する効果は不明である。
■ 半導体レーザー光凝固術の有効例があった。
■ 低用量の外部放射線照射では、有益性、有害性ともに著しい結果はなかった。対照的に、加齢黄斑変性症のため本治療を受けた後、PCV 様の血管病変を来たした症例があり、放射線照射は PCVの誘因となる可能性が報告されている。
■ 中心窩下 PVC に対して、加齢黄斑変性の治療法「Verteporfinを用いる光線力学療法 (PDT)」が有効であったとの報告 (Quarantaら,2002年)および私信 (Spaide RF.) はあるが、比較臨床試験は行われていない。
※訳者注:PDTの解説ページ
http://infohitomi.biz/archives/000018.html
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