小児期に発生する網膜の悪性新生物「網膜芽細胞腫C69.2」の主症状などについての論文(要約)です。
「網膜芽細胞腫」診断の遅れ
J Pediatr (Rio J). 2004 Nov-Dec;80(6):511-6. Portuguese.
Delayed diagnosis in retinoblastoma
Rodrigues KE, Latorre Mdo R, de Camargo B.
Fundacao Antonio Prudente, Centro de Tratamiento e Pesquisa, Hospital do Cancer de Sao Paulo, Sao Paulo, SP.
[要約の邦訳]
目的: 網膜芽細胞腫の主症状を特定し、症状発症から診断までの平均時間 (遅延時間 タイムラグ 時間差 lag time)を調査する。
患児と方法: 1991年1月から2000年6月までの期間に網膜芽細胞腫と診断された患児を対象に後向き解析を行った (ブラジル サンパウロの癌センター小児科 医療機関名: the Pediatric Department of the Hospital do Cancer)。統計学的解析として、Student's t test, ANOVA, Tukey-HSD test (honest significant differences), Levene's test, multiple regression, ROC curve, logistic regression, Kaplan-Meier, log rank を行った。
結果: 327人分の診療記録 (男児 171人)をレビューした。 患児の平均年齢は 25か月であった。限局性疾患 (訳者注: 限局性病変)は 269症例にみられた。最多症状は、白色瞳孔 (79% leukocoria), 斜視 (10.7% strabismus), 腫瘍による腫瘤 (3.4% tumor mass)であった。平均遅延時間 (mean lag time) は 5.8か月であった。2才を超した患児は乳児に比べて、遅延時間は長かった(7.2 vs 4.7 か月; p = 0.001)。斜視を呈する患児の遅延時間 (8.8か月)は、腫瘤 (2.3か月)および白色瞳孔 (5.6か月)に比べて長かった (p = 0.014)。転移性疾患(訳者注: 眼球外への転移)を有する患児の遅延時間は長かった (10.6か月; p < 0.001)。
遅延時間は進行疾患(訳者注: 進行期病変)[オッズ比 OR = 3.25/信頼区間 CI = 1.61:6.55], 転移性疾患 [OR=3.52/ CI = 1.21:10.21] および斜視 [OR = 2.84/IC = 1.36:5.92] に左右された。5年全生存率は、遅延時間が長い患児 (78%)に比べて、限局性疾患の患児 (94.6% )と遅延時間 6か月未満の患児 (91%)で、より高かった (p < 0.001)
結論: 網膜芽細胞腫の最多症状は、白色瞳孔, 斜視, 腫瘤であった。平均遅延時間は 5.8か月であった。斜視と進行期病変は、より長い「遅延時間」に相関した。進行期病変と6か月以上の「遅延時間」を有する患児の予後は、より悪かった。
訳者注: 「白色瞳孔」について
網膜芽細胞腫が硝子体腔に向かって増殖し水晶体後方に位置するようになると、灰白色の腫瘤表面で光を反射するため、角膜・虹彩中央の"ひとみ (瞳孔, 瞳孔領)"が黄白色に光ってみえることがあります。
網膜芽細胞腫では、腫瘤状の病変部分では網膜機能が障害され、通常視力は失われるので、この症状・病期を「黒内障性猫眼 "amaurotic cat's eye"」と別称したこともあります。
本来黒い"ひとみ" (瞳孔の周囲組織 虹彩のことではありません)が白く反射するとき、眼科診断学では「白色瞳孔」とよびますが、網膜芽細胞腫のほか、第一次硝子体過形成遺残、未熟児網膜症(後水晶体線維増殖症)、網膜剥離、Coats 病、化膿性眼内炎、他の眼内腫瘍などでもみられます。
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