流行性角結膜炎 (epidemic keratoconjunctivitis EKC) などの「アデノウイルスによる伝染性結膜炎」の臨床的特徴や診断法に関する情報提供サイトは数多く存在します。学校伝染病にも指定されているため、診断確定例、典型例についての理解はとても大切ですが、診断困難例や「誤診例」も少なくないことは余り知られていないようです。
医学文献検索サイト PubMedにてキーワード「アデノウイルス adenovirus 結膜炎 conjunctivitis 誤診 misdiagnosis」を入力し、過去40年余りの主要な発表論文を検索したところ、わずか 2編のみヒットしました。
1編は 多重PCR検査法 (アデノウイルス adenovirus, 単純疱疹ウイルス herpes simplex virus, クラミジア トラコマティス Chlamydia trachomatis に対する multiplex PCRと従来のuniplex PCRの検出感度比較) に関するものでした。
Invest Ophthalmol Vis Sci. 2000 Jun;41(7):1818-22.
Multiplex polymerase chain reaction for diagnosis of viral and chlamydial keratoconjunctivitis.
Elnifro EM, Cooper RJ, Klapper PE, Yeo AC, Tullo AB.
School of Medicine, The University of Manchester, United Kingdom.
[要約の邦訳は省略します]
参照ページ: ウイルス性結膜炎、急性ろ胞性結膜炎の病原体について
» http://cgi12.plala.or.jp/yamamura/topics/index.cgi?page=30
他1編は、下記のとおり、イギリスの教育研究病院 teaching hospital の眼科で流行した EKC症例 38例の調査(監査)結果です。誤診率は、片眼発症 EKC患者では42%であったということです。残念ながら、これまで国内外において、このような伝染病に関する「誤診率」の報告はほとんどなされていないようです。
流行性角結膜炎--発生は流行性(集団発生)でなければならないか?
Eye. 2003 Apr;17(3):356-63.
Epidemic kerato-conjunctivitis--do outbreaks have to be epidemic?
Cheung D, Bremner J, Chan JT.
Department of Ophthalmology, Royal Hallamshire Hospital, Sheffield, UK.
[要約の抄訳]
目的: 以下について研究する: 英国の1つの教育研究病院におけるアデノウイルス角結膜炎の発生についての疫学; 病気の症状と臨床診断率への影響; 病院スタッフ・患者間のウイルスの伝染パターン; 発生を最小限にする感染対策手順の効果。
方法: 前向き/後向きの診療監査とウイルス学的培養結果の後向き監査: アデノウイルス角結膜炎の発生中に採取された全てのウイルス培養用綿棒(スワブ)の結果を調べた。ウイルス用スワブからのアデノウイルス培養が陽性であった患者の病歴を追跡調査した。培養陽転時期 (culture positive time) を計算した。(1) 感染源 (2) 感染獲得 acquisition of (the) infection となるリスク因子 を解明するために、症例記録を分析した。感染対策手順の効果を評価するために、後向き診療監査を行った。アデノウイルス分離株は、血清型を調べた。
結果: 3か月の調査期間中、アデノウイルス角結膜炎の確定診断例は 38症例であった。3か月当たりの新規症例数の増加率は 217%となった。5例の症例記録では追跡調査されていなかった。他の 33症例中、21例 (63%)は眼科(学部)から直接的ないし間接的に感染獲得し、22例 (67%)は片眼性(疾患)を呈していた。誤診率は、両眼性を呈していた患者 (2/11=18%)より片眼性を呈していた患者 (9/22=42%) が高かった。眼科内での感染獲得 acquisition of infection は、診断用または治療用コンタクトレンズ使用などの侵略的処置に関連した。ウイルス培養陽転時期は、3日から 29日であった。感染対策手順の導入により眼科内感染例の頻度は著減し、2週以降、新規発症例はなくなった。複数の血清型によるアデノウイルス感染が起こっていた。
結論: アデノウイルス角結膜炎の発生は、眼科(学部)にとって重大な公衆衛生上の問題です。今回の監査研究によって、いくつかの重要な点が明らかになりました:
(1) 病院内感染が発病症例のかなりの割合を占めるにいたる経緯
(2) 一回の発生に複数のアデノウイルス血清型がどのように関与するか
(3) 重症の片眼性のケースが高い誤診率に関連すること
(4) 診断が疑わしいとき、標準的なウイルス培養法は感染の確定や反証に際して、どうして満足できない可能性があるのか
本監査では、発生を最小限とする感染対策手順の潜在的利益について証明するに至らなかった。
参照ページ:
血清型、遺伝子型による流行の動向
» http://www.medqa.jp/2004/07/post_f1c2.html
IDWR:感染症の話 咽頭結膜熱
» http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k03/k03_14.html
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