Loo RH ら (Bascom Palmer Eye Institute) による最新論文の抄訳です。
【論文結果の一部と結論】
特発性中心性漿液性網脈絡膜症 H35.7 患者の長期追跡調査(3年以上)中、視力低下に関連する因子に含まれるものは、持続性色素上皮剥離または持続性網膜下液、再発、黄斑網膜下脈絡膜新生血管であった。本研究では、レーザー治療、黄斑部の網膜色素上皮萎縮、黄斑下方の網膜色素上皮の萎縮域と視力低下とは有意な関連はなかった。
全症例 61例101眼の最終検査時所見
両眼性 65.6%
再発率 46.5%
平均視力 0.5 (= Snellen 20/40)
脈絡膜新生血管 2%
特発性中心性漿液性網脈絡膜症の長期経過観察例にみられる視力低下に関連する因子
Retina. 2002 Feb;22(1):19-24.
Factors associated with reduced visual acuity during long-term follow-up of patients with idiopathic central serous chorioretinopathy.
Loo RH, Scott IU, Flynn HW Jr, Gass JD, Murray TG, Lewis ML, Rosenfeld PJ, Smiddy WE.
Department of Ophthalmology, Bascom Palmer Eye Institute, University of Miami School of Medicine, Miami, Florida 33136, USA.
[略語]
ICSC » 特発性中心性漿液性網脈絡膜症 idiopathic central serous chorioretinopathy
SRF » 網膜下液 subretinal fluid
CNV » 脈絡膜新生血管 choroidal neovascularization
PED » 色素上皮剥離 pigment epithelium detachment
RPE » 網膜色素上皮 retinal pigment epithelium
【対象, 方法】米国マイアミ大学医学部 Bascom Palmer Eye Instituteにおいて 1970/1/1 から 1997/12/31の期間に症例を評価し、その後3年以上追跡調査した特発性中心性漿液性網脈絡膜症 (ICSC) の全患者をレビュー(後向き調査)した。臨床データは、初回検査、3年, 5年, 10年, 最終検査時のものを抽出した。
対象除外例: ポリープ状脈絡膜血管症 (Polypoidal choroidal vasculopathy)、初診時年齢 50才を越える患者など(訳者注: 他の除外疾患の記述は省略します)。
再発の定義: PEDやSRFが消失したと記載されていた同部位に再び PEDやSRFが発症するか、以前とは異なる部位に黄斑部PEDやSRFが出現する。患者の主訴によって再発としたのではない。持続性のPEDやSRFは再発とはみなさない。
CNV: 蛍光眼底血管造影による確認例のみ。
【結果】3年以上追跡調査した症例は 61症例 101眼であり、初回検査時の平均年齢は 39.8才 (年齢分布 27.3-48.2才)であった。平均追跡調査期間は 9.8年 (中央値 8.0年; 範囲 3.1年-26.2年)であった。
最終検査時の 視力が 0.5以上保持されていた患眼を [Group 1], 視力 0.5未満であった患眼を [Group 2] として後向きの比較調査を行った。11症例では、片眼[Group 1]、他眼[Group 2]であった。
Group 1: 51例 76眼. 平均年齢 39.7才 (27.7-48.1才)
Group 2: 21例 25眼. 平均年齢 40.9才 (31.9-48.2才)
グループ間で有意差のあった所見 (視力低下のリスク因子 Group 1 vs Group 2)
· 再 発: 3年( 36.4% vs 72.7%; P= 0.043), 最終( 39.5% vs 68.0%; P= 0.02)
· PED または SRFの存在: 3年( 15.9% vs 27.3%; P= 0.40), 最終( 5.3% vs 28.0%; P= 0.004)
· 黄斑部網膜下 CNV: 3年( 0% vs 18.2%; P= 0.037), 最終( 0% vs 8.0%; P= 0.059)
レーザー治療の適応症例は、黄斑部網膜に及ぶ持続性ないし再発性SRFを含む。治療を行った眼科医がレーザー治療の時期や範囲を決定した。
グループ間で有意差のなかった所見
· 黄斑部網膜の RPE 萎縮: 3年(79.6% vs 90.9%), 最終(90.8% vs 96.0%)
· 黄斑部下方の RPE 萎縮域 atrophic RPE tracts: 最終(4.0% vs 4.0%)
· レーザー治療の眼数: 最終(28.9% vs 32.0%)
【考案】
他論文データとの比較:
(1) 他の論文では追跡調査期間に差があるため、両眼性の発症頻度も変化が大きい (8-86%)のであるが、長期追跡調査を行った本研究では以前の報告よりその頻度は高く、初回検査時 36.1%, 最終検査時 65.6% であった。
(2) 再発率を他の過去論文と比較することは、再発の定義、方法、追跡調査期間の違いがあるため、多少困難を伴います。以前の漿液性網膜剥離の部位外に蛍光漏出点が出現しても再発としてカウントしなかったり、追跡期間が短いと、再発率は低くなる可能性があります。それにも係わらず、本研究の全症例での再発率 46.5% が他論文データ (15.4-50.7%) の範囲内であったのは、通院間隔が不定であり、PEDやSRFが再発であるか持続性であるか、区別できなかったためであることを認めなければならない。
(3) 本研究の全症例中 92.1%(最終検査時) に黄斑部網膜の RPE変化がみられたが、他の研究論文データ (43-87%) より頻度は若干高い。他論文では重症例が時々対象から除外されているので、バイアスの結果の可能性がある。
(4) 黄斑部下方の RPE 萎縮域は、より強いSRFと経過の慢性化を意味し、視力低下との関連性があるかもしれないが、本研究では視力悪化とは有意の関係はなく、類嚢胞黄斑浮腫を伴わなかったり黄斑が回避されたことを反映した可能性がある。
バイアス:
(1) 最長26年に及ぶ長期間の追跡調査症例のみ対象とした (追跡調査期間 3年未満の症例は除外した) ので、自然治癒した、より軽症の症例は対象に含まれていない可能性がある。
(2) 他論文の報告例に比べて、本研究での平均最終視力 (0.5)は若干悪く、また 1.0が保持された症例の頻度が少ない理由として、大学病院のために複雑なケースが紹介受診となったり、追跡調査期間がより長期のためであろう。
最近のコメント