眼窩腫瘍 137例の手術合併症についての論文です。
「眼窩腫瘍の手術合併症」
Ophthalmic Plastic and Reconstructive Surgery. 1992;8(2):88-93.
Complications of surgery for orbital tumors.
Purgason PA, Hornblass A.
Department of Ophthalmology, Manhattan Eye, Ear & Throat Hospital, New York.
[要約の邦訳]
http://www.qqiac.com/2005/07/_137_3ff3.html
をご参照下さい。
1983年1月から1989年12月までの 7年間に眼窩手術を行った 152症例のうち、眼窩内容除去術症例を除外した 137症例を対象として、眼窩腫瘍術後の合併症について詳細な後向きチャート調査が行われました。
腫瘍部位、手術法の中で、合併症発生頻度の高かった側方眼窩切開術 lateral orbitotomy による筋円錐内腫瘍摘出術の結果(一部)について、抄訳いたします。
TABLE 3. Complications of lateral orbitotomies
-------------------------------------------------
Case
no. Tumor Location Complications
-------------------------------------------------
1 Lymphangioma Intraconal Abduction deficit
2 Hemangioma Intraconal Fixed, dilated pupil
3 Hemangioma Intraconal Dehiscence of bone flap
Abduction deficit
4 Hemangioma Intraconal Abduction deficit
5 Hemangioma Intraconal Fixed, dilated pupil
Abduction deficit
Neurotrophic keratitis
6 Hemangioma Intraconal Neurotrophic keratitis
7 Schwannoma Intraconal Fixed, dilated pupil
8 Schwannoma Intraconal Fixed, dilated pupil
Abduction deficit
9 Schwannoma Intraconal Abduction deficit
10 Schwannoma Intraconal ? Recurrence of tumor
11 Schwannoma Superolateral Recurrence of tumor
12 Lymphoma Lacrimal gland Abduction deficit
13 Lymphoma Lacrimal gland Hematoma
14 Adenoma Lacrimal gland Ptosis
[同表の邦訳]
表 3. 側方眼窩切開術の合併症
-------------------------------------------------
症例
番号 腫瘍名 部 位 合併症
-------------------------------------------------
1 リンパ管腫 筋円錐内 外転障害
2 血管腫 筋円錐内 瞳孔の固定, 散大状態
3 血管腫 筋円錐内 骨性移植弁の 口多[※] 開
外転障害
4 血管腫 筋円錐内 外転障害
5 血管腫 筋円錐内 瞳孔の固定, 散大状態
外転障害
神経障害性角膜炎
6 血管腫 筋円錐内 神経障害性角膜炎
7 神経鞘腫 筋円錐内 瞳孔の固定, 散大状態
8 神経鞘腫 筋円錐内 瞳孔の固定, 散大状態
外転障害
9 神経鞘腫 筋円錐内 外転障害
10 神経鞘腫 筋円錐内 ? 再発
11 神経鞘腫 上外側 再発
12 リンパ腫 涙 腺 外転障害
13 リンパ腫 涙 腺 血 腫
14 腺 腫 涙 腺 眼瞼下垂
※ 口多(シ) 開: 創部、縫合部が術後に開いてしまうこと(縫合不全など)。
側方眼窩切開術 40症例中 14例 35%に合計 18件の合併症が発生しました。合併症の大部分は、腫瘍が筋円錐内のときに発生し、およそ50% (10/21症例: 分母は筋円錐内腫瘍の全症例数)でした。
側方眼窩切開術後に合併症を来たした症例 [表 3] 14症例中10例 71% が筋円錐内腫瘍でした。
2大術後合併症: 外転障害, 瞳孔異常
【外転障害 Abduction deficit】
定義: 術後、最短期間 3ヶ月障害が存続したとき(術前状態の悪化を含む)
側方眼窩切開術 40症例中 7例 17.5%に合併。
術中に外転筋を過度に牽引したり、術後癒着により生じます。
完全に症状消失するまでの期間ないし経過:
症例 (A) 術後 5ヶ月
症例 (B) 術後 6ヶ月
症例 (C) 術後 8ヶ月
症例 (D) 手術 4ヶ月後の最終診察時、側方視時に複視あり
症例 (E) 著しい症状 8ヶ月間, 4年間で徐々に改善, 極端な側方視時のみ複視残存
症例 (F) 1年後の最終診察時に著明な外転障害あり
症例 (G) 1年後の最終診察時に著明な外転障害あり
症例 (No.3) 創部(骨)のシ開により、骨膜と外直筋が癒着したため、再手術施行。1年後の最終診察時にも外転障害は残存。
【瞳孔の固定, 散大 Fixed, dilated pupil】
側方眼窩切開術 40症例中 4例 10%に合併し、筋円錐内腫瘍の 1/4の症例で発症しました。腫瘍が視神経に接していたり、円錐内下部にあるとき、瞳孔異常と関連性がありました。内眼筋麻痺を伴う瞳孔異常を来たすことが多く、主に、外直筋と視神経の間で、かつ、総腱輪 (annulus of Zinn)の前方 10mm に位置する毛様体神経節 ciliary ganglion の障害によるものです。
他の合併症
【神経障害性角膜炎 Neurotrophic keratitis】
2症例に発生。ともに、巨大な球後の血管腫の症例でした。1例は手術治療(Gunderson 結膜弁および瞼板縫合術)、他 1例は頻回点眼治療 aggressive lubrication。
[表 3] をご参照下さい。神経鞘腫の再発については、著者は考案の中で、「神経鞘腫の再発のリスク、わずかであるが悪性変化のリスクのため、完全切除を目指す正確な摘出手術は正当化される。」と述べています。
神経鞘腫の再発例 2例 (このうち、1例は CT検査にて診断)は、再手術により (塊状ではなく) 断片 piecemeal fashion として除去されています。今回、神経鞘腫 schwannoma 7症例中 2例に再発がみられましたが、部分摘出例であっても再発はとてもまれであるとの報告があります(Rootman J.1988年)。
ここで、Miller の総説論文によると、
「視神経と視神経鞘の原発性腫瘍」
Eye. 2004 Nov;18(11):1026-37.
Primary tumours of the optic nerve and its sheath.
Miller NR.
Wilmer Eye Institute, Johns Hopkins Hospital, Baltimore, MD 21287, USA.
Schwannoma 神経鞘腫:
末梢神経の Schwann 細胞から発生する良性腫瘍である。好発部位は第 8脳神経の前庭神経枝や三叉神経根であるが、ときに視神経にみられることがある。視神経のミエリンは Schwann 細胞よりも 乏突起神経膠細胞 oligodendrocyte によって産生されるので、神経鞘腫は視神経鞘に強固に付着している 交感神経 に随伴するSchwann 細胞から発生するものと考えられている。・・・・
また、Shields JA らの眼窩腫瘍レビューによると、
Ophthalmology. 2004 May;111(5):997-1008.
Survey of 1264 patients with orbital tumors and simulating lesions: The 2002 Montgomery Lecture, part 1.
Shields JA, Shields CL, Scartozzi R.
Oncology Service, Wills Eye Hospital, Thomas Jefferson University, Philadelphia, Pennsylvania 19107, USA.
[要約の邦訳]
» http://www.qqiac.com/2004/11/_1264_244_5fcb.html
をご参照下さい。
眼窩内の筋円錐 cone内では、海綿状血管腫 cavernous hemangioma, 視神経膠腫 optic nerve glioma, 視神経髄膜腫 optic nerve meningiomaが多いとされています。
よって、Purgason PA らの論文において、病理診断名 Schwannoma の腫瘍が多いことにやや疑問は残りますが、眼窩筋円錐 cone 内腫瘍の術後合併症に関しては、詳細で貴重な報告です。
Miller の総説論文を再度引用しますと、
「視神経鞘の schwannoma 神経鞘腫は臨床所見だけではおそらく診断不能であり、画像診断所見は視神経膠腫 glioma に類似している」
「本報告例も、診断は手術時に確定した」
「今日まで手術が選択されていたが、多くの頭蓋内神経鞘腫で行われている 定位的放射線治療 stereotactic radiosurgery が視神経の本腫瘍にも治療オプションとして考慮されるべきである」
また、「血管腫」のうち、眼窩内の「海綿状血管腫」については、エントリー
» http://www.qqiac.com/2005/05/post_67c6.html
» http://www.qqiac.com/2004/02/post_8d46.html
もご覧ください。
最近のコメント