病的近視は、(強度近視に伴う)変性近視 Degenerative myopiaH44.2 と同義語ですが、光線力学療法 (ベルテポルフィン治療)の対象眼は、国内では加齢黄斑変性(症)と同じ国際疾病分類 H35.3 に分類されることがあります。
病的近視のために中心窩下脈絡膜新生血管病変を来たした患者のうち、病変の最大直線寸法 5400μm以下, 最高矯正視力 letter スコア 50以上 (近似スネレン等価視力 20/100以上 [訳者注: 日本で一般的な国際標準小数視力表示にさらに換算すると, 0.2以上]などの基準を満たす患者を対象とした臨床試験が欧州、北アメリカの合計28の眼科施設で行われています。研究班 Verteporfin in Photodynamic Therapy Study Group が継続して実施している臨床試験(治験) であり、VIP Trialともよばれます (病的近視 pathological myopia (PM)を対象とした本試験を VIP-PM と別称することもあります)。
試験デザイン: 多施設, 2重盲検, 偽薬対照化, 無作為比較臨床試験
multiple, double-masked, placebo-controlled, randomized clinical trial
エントリー「病的近視とベルテポルフィン治療 (その1)」
» http://infohitomi.biz/archives/000059.html
もご覧下さい。
本試験の1年目の結果の抄訳は省略します。
Ophthalmology. 2001 108:841-52.
Verteporfin in Photodynamic Therapy (VIP) Study Group. Photodynamic therapy of subfoveal choroidal neovascularization in pathologic myopia with verteporfin: 1-year results of a randomized clinical trial--VIP report 1.
病的近視の中心窩下脈絡膜新生血管に対するベルテポルフィン治療: ランダム化臨床試験の2年結果--VIPレポート no.3
Ophthalmology. 2003 Apr;110(4):667-73.
Verteporfin therapy of subfoveal choroidal neovascularization in pathologic myopia: 2-year results of a randomized clinical trial--VIP report no. 3.
Blinder KJ, Blumenkranz MS, Bressler NM, Bressler SB, Donato G, Lewis H, Lim JI, Menchini U, Miller JW, Mones JM, Potter MJ, Pournaras C, Reaves A, Rosenfeld P, Schachat AP, Schmidt-Erfurth U, Sickenberg M, Singerman LJ, Slakter JS, Strong HA, Virgili G, Williams GA.
[要約の結論]
病的近視に発生する中心窩下脈絡膜新生血管に対するベルテポルフィン治療は2年間の追跡調査により、プラセボ(偽薬)治療群に比べて安全に視力 visual benefit を保持した。2年追跡調査では、第一義的(主要)な結果 primary outcome については、1年追跡調査のようなベルテポルフィン治療を支持する統計学的に有意な結果はなかった が、24か月時点の検査における視力変動の分布はベルテポルフィン治療群を支持し、24か月間の検査にて治療群は視力改善しやすい可能性を示した。The VIP Study Group はこのランダム化臨床試験の 1年-および 2年結果に基づき、病的近視による中心窩下脈絡膜新生血管に対するベルテポルフィン治療を推奨する。[アンダーラインは訳者による]
[論文の一部、結果のみ邦訳します]
2年結果は、2000年10月10日に完了しました。
24か月検査は、verteporfin 治療群 81症例中 77例 (95%)、偽薬群 39症例中 36例 (92%)に行われました。2年目には追跡調査できなかった症例は、治療群 3% 偽薬群 0% でした。
21か月の検査時(最終の再治療時期)、治療群 23例 (28%), 偽薬群 9例 (23%)が治療を受けました。
12か月の検査時の治療群 57%, 偽薬群 51% に比べて、減少しました。
12か月から21か月の期間中の平均治療回数:
治療群 1.7回, 偽薬群 1.4回 (P = 0.23)
試験開始から21か月まで平均治療回数:
治療群 5.1回, 偽薬群 4.6回 (P = 0.19)
視力結果 Vision Outcomes [訳者注: 治験デザインより症例数=眼数です]
24か月の検査時、少なくとも 8 letters (近似スネレン等価視力 approximate Snellen equivalent 少なくとも 1.5ライン)の視力低下:
治療群 29/81眼 (36%), 偽薬群 20/39眼 (51%) (P = 0.11)
3か月毎の追跡調査をみると、治療群では6ヶ月から24か月の期間において少なくとも 8 letters 低下した眼数の変化はほとんどなく、偽薬群 (39眼だけであるが) の変動幅は大きかった。
24か月の検査時の視力変動の分布は、ベルテポルフィン治療を受けた症例の有益性を支持している。
中央値 (P = 0.05): 治療群 +0.2ライン (+1.0 letters), 偽薬群 -1.6ライン (-8.0 letters)
[訳者注: + 改善, - 低下]
少なくとも 5 letters (近似スネレン等価視力 approximate Snellen equivalent 少なくとも 1ライン)の視力改善:
治療群 32/81眼 (40%), 偽薬群 5/39眼 (13%)
少なくとも 15 letters (少なくとも 3ライン)の視力改善:
治療群 10/81眼 (12%), 偽薬群 0/39眼 (0%)
少なくとも 15 letters (少なくとも 3ライン)の視力低下(中等度低下):
治療群 17/81眼 (21%), 偽薬群 11/39眼 (28%) (P = 0.38)
24か月の検査時
視力(中央値): 治療群 61 letter score (20/64+1) [訳者注: 国際標準小数視力 0.3より少し良い], 偽薬群 51 letter score (20/100+1) [訳者注: 小数視力 およそ 0.2] (P = 0.07)
試験開始前の視力との比較:
3か月目から24か月目の全期間を通して治療群は安定していた。
コントラスト感度スコア:
24か月間通して治療群(73眼)は安定し、偽薬群(34眼) はほんのわずかな悪化あり。
蛍光眼底造影結果 Fluorescein Angiographic Outcomes:
24か月検査時(判定困難例を除く)、治療前の病変を越えた、典型的CNV (classic choroidal neovascularization の拡大があった進行例:
治療群 35% (75眼中), 偽薬群 43% (37眼中) (P = 0.22)
治療前病変と比較して(病変の拡大とは無関係に)、classic型の脈絡膜新生血管 CNVが消失した頻度:
治療群において12か月から24か月の期間に 6%増加しました (対照群 18%)。
蛍光漏出なし:
治療群 44% (75眼中), 偽薬群 51% (37眼中) (P = 0.46)
24か月の検査時の病変サイズ:
1乳頭径以下:
治療群 55% (76眼中), 偽薬群 36% (39眼中) (P = 0.05)
3乳頭径を越えるサイズ:
治療群 9% (76眼中), 偽薬群 28% (39眼中) (P = 0.01)
安全性 Safety
治療との関連性の有無にかかわらず発生した有害事象(治療群 81例中, 偽薬群 39例中):
治療群 59症例 (73%), 偽薬群 27症例 (69%)
治療担当眼科医により治療に関連したと判断されたもの:
治療群 25症例 (31%), 偽薬群 13症例 (33%)
臨床関連の有害事象 (治療との関連性を問わず):
[訳者注 以下に治療群 症例数 (%) 偽薬群 症例数 (%)の順に表示します]
■ 視力障害
19(23) 8(21)
[12か月時点 17 8]
■ 注射部位の有害事象
8(10) 2(5)
疼痛, 浮腫, 血管外漏出, 炎症, 出血, 変色など
[12か月時点 6 0]
■ 注射による背部痛
1(1) 0(0)
[12か月時点 1 0]
■ アレルギー反応
3(4) 2(5)
■ 光線過敏反応
3(4) 1(3)
[12か月時点 治療群 3]
死亡例 なし
網膜血管閉塞性病変 なし
治療7日以内の重篤な急性視力低下 なし
潜在的な眼部有害事象に関して、治療前に比べて 24か月時点で網膜内出血や網膜下出血の増加がみられた症例は治療群 7%, 偽薬群 5% とほぼ同じであった。
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